広告費用対効果は、業界平均のROASではなく、客単価に対するCPAの比率で判断します。ROAS(用語:広告費に対する売上の割合を示す指標)とCPA(用語:1件の獲得にかかった広告費)は、いずれも広告の成果を測る指標です。両方とも広告運用で広く使われています。
「目標ROAS300%」といった業界の目安を自社の数値と照らし合わせても、それが良いのか悪いのか判断がつかず困っていないでしょうか。客単価が1,000円の商材と10万円の商材とでは、同じROASの数値でも意味がまったく違います。広告費にかけられる金額もリスクの許容度も、客単価によって変わってくるものです。
今回は、これまで35社・10業界を支援してきた経験をもとに、広告費用対効果を客単価基準で計算する手順と赤字に近づく危険ラインを解説します。あわせて、顕在層向け・潜在層向けで測り方が変わる理由も取り上げる内容です。
この記事でわかること
- 広告費用対効果を客単価とCPAの比率で判断する考え方
- 業界平均のROASや計算テンプレートが自社に当てはまらない理由
- CPAが客単価の2〜3倍に近づいたら危険ラインとして扱う判断基準
- 自社の費用対効果を計算するために次に確認すべきこと
広告費用対効果は客単価とCPAの比率で判断する
広告費用対効果は、業界平均のROASと比較するのではなく、客単価に対するCPAの比率で判断します。

ROASは、広告費に対する売上の割合を示す指標として広く使われています※1。ただし、この割合だけを見て良し悪しを判断すると、客単価の違いを見落としてしまいます。
例えば、1件あたり1万円の広告費をかけて獲得した顧客の客単価が1,000円だったとすれば、赤字です。一方、同じ1万円のCPAでも客単価が10万円の商材であれば、十分に利益が残ります。私が相談を受けるなかでも、業種差そのものより、この客単価とCPAの比率が結果を大きく左右していると実感しています。
広告費用対効果を業界平均で判断できない理由
広告費用対効果を業界平均のROASで判断できないのは、業種の違いよりも客単価の差が結果に影響するためです。ここでは、その理由を2つの観点から確認します。
業種差より客単価の影響が大きい
広告費用対効果の良し悪しは、業種そのものよりも自社の客単価によって変わります。
中小企業庁の調査では、業種によって売上高に対する広告宣伝費など営業費用の水準が異なることがわかります※2。ただし、業種ごとに水準差があっても、その広告費が実際に利益につながっているかは別の話です。
その良し悪しは、獲得した顧客1人あたりの客単価と広告費の比率で決まります。同じ業種のなかでも、客単価が高い商材を扱う会社と低い商材を扱う会社とでは、許容できる広告費の上限がまったく違うわけです。
テンプレート計算は企業ごとに異なる
広告費用対効果は、決まったテンプレートの計算式に当てはめるだけでは正しく算出できません。
実際に計算しようとすると、複数の工程を自社の実情に当てはめる必要があります。目標となる売上から必要な客単価を割り出し、その客単価からCV単価(用語:1件の獲得にかけられる広告費の上限)を逆算する流れです。
この工程を省いてテンプレートの数値をそのまま使うと、実態とかけ離れた予算やCPA目標を設定してしまいます。
広告費用対効果を計算する3つの手順
広告費用対効果は、目標とする売上高から数字を逆算していけば、根拠を持って計算できます。ここでは、その逆算の流れを3つの手順で確認します。

目標売上から必要な客単価を割り出す
計算の起点は、目標とする売上高を、実現したい客単価に置き換えることです。
売上高をそのまま追いかけるのではなく、1件あたりの客単価をいくらに設定すれば目標に届くのかを先に確認します。この客単価が、以降のすべての計算の土台になります。
許容できるCV単価を逆算する
次に、割り出した客単価をもとに、許容できるCV単価を逆算します。
客単価から粗利や原価を差し引いた金額の範囲内でCV単価を設定しないと、獲得すればするほど赤字が膨らむ構造になってしまいます。ここで出すCV単価が、そのまま広告の目標CPAとなる仕組みです。
そこから広告予算を決める
最後に、逆算したCV単価に必要な獲得件数を掛け合わせて、広告予算を決めます。
この一連の計算は、テンプレートに数字を当てはめるだけでは終わらず、会社ごとの粗利率や必要な獲得件数によって結果が変わります。自分たちで計算しようとして手が止まった場合は、途中の数字を一緒に整理するところから相談してもらって構いません。
費用対効果が赤字に近づく3つの危険ライン
広告費用対効果は、CPAが客単価の何倍に達しているかを確認すれば、赤字に近づいているかを判断できます。ここでは、赤字に近づく危険ラインを3つの基準で確認してください。
これらは私がこれまで支援してきた案件の粗利率水準をもとにした目安です。粗利率が高い商材ほど猶予は生まれますが、中小企業に当てはまる水準として紹介します。
| 危険度 | CPAと客単価の関係 | 状態 |
|---|---|---|
| 要注意 | CPAが客単価の2倍を超える | 客単価と同額以上の損失が出ている |
| 赤字ライン | CPAが客単価の3倍に達する | 赤字が確定している |
| 赤信号 | 月間広告費が月間売上を上回る | 赤字が確定している |
それぞれのラインについて、判断の目安を確認します。
CPAが客単価の2倍を超えたら要注意
CPAが客単価の2倍を超えたら、費用対効果が悪化しているサインとして注意が必要です。
客単価に対してCPAが2倍というのは、粗利や人件費を差し引く前の時点で、すでに客単価と同額以上の損失が出ている状態です。この段階で気づけるかが、赤字を深追いせずに済むかの分かれ目になります。
CPAが客単価の3倍で赤字ライン
CPAが客単価の3倍に達すると、さらに赤字が確定しているラインです。
客単価1万円の商材にCPA3万円をかけているような状態は、獲得すればするほど資金が流出します。この水準まで来た広告は、いったん配信を止めて原因を確認する対象だと考えています。
月間広告費が月間売上を上回ったら赤信号
月間の広告費が月間の売上を上回った場合は、赤字がすでに確定している状態です。
広告費と売上の金額が同じであっても、そこには人件費など他の経費がかかっているため、実質的にはその分だけ赤字になります。広告費イコール売上という状態そのものが、成り立ってはいけないラインだと捉えています。

顕在層向けと潜在層向けで広告の効果は測り方が違う
リスティング広告とSNS広告は、そもそも狙う顧客層が異なるため、費用対効果を同じものさしで比べられません。ここでは、両者の違いを3つの観点から確認します。
リスティング広告は顕在層を刈り取る
リスティング広告は、顕在層(用語:ニーズが明確になり、能動的に情報を探している見込み客層)に向けた広告です。すでに悩みや欲求を自覚し、検索して情報を探している人が対象になります。
検索キーワードに対して広告を出すため、探している人に直接届きやすく、コンバージョンまでの距離が短いのが特徴。私が広告運用を提案する際も、リスティング広告をメインに据えます。
SNS広告は潜在層を掘り起こす
一方、メタ広告やInstagram広告、TikTok広告といったSNS広告は、潜在層を掘り起こす広告です。潜在層(用語:ニーズをまだ自覚していないが、将来的に顧客になり得る層)にも情報を届けられます。
検索という能動的な行動を経ていないユーザーに広告を見せる仕組みのため、興味を持ってもらうまでの距離がリスティング広告より長くなりやすいです。この性質の違いを理解せずに両者のCPAだけを比較すると、判断を誤ります。
SNS広告のCPAが低く見える理由
SNS広告のCPAが低く見えるのは、バナーのクリックのような軽い行動だけでコンバージョンとして計測されてしまうケースがあるためです。これは私が実際に見てきた案件の傾向です。
例えば、あるクライアントの自動化された広告配信(検索連動を伴わないタイプ)では、コンバージョン数自体は大きく伸びました。ただし、実際の登録者数とは大きく乖離しており、成果にほとんど結びついていませんでした。メタ広告でも同様に、コンバージョンが実際の成果に結びついていないケースを見ています。
リスティング広告と同じコンバージョン地点を設定していても、潜在層向けの配信では同様の乖離が起きるケースがあります。CPAの数値だけを見て良し悪しを判断せず、その先の実際の反響までの確認が欠かせません。
費用対効果は3か月経過してから判断する
広告費用対効果の良し悪しは、配信を開始してから少なくとも3か月が経過してから判断するようにしています。配信量やコンバージョン数が少ない小予算のアカウントほど学習に時間がかかる傾向があるため、あくまで目安としての期間です。ここでは、判断を急がない理由を3つの観点から説明します。
初月の数値には確証がないと伝える
配信を開始して1か月ほどで一度傾向を確認しやすいですが、その段階の数値にはまだ確証がないという点を最初に伝えるようにしています。
初月の数値は学習期間中の不安定な結果を含んでおり、そのまま良し悪しの判断材料にはできません。ここで焦って判断すると、本来伸びるはずだった広告を早期に止めることにもなりかねません。
アラート検知時はすぐ声をかける
一定水準のtCPA(用語:目標コンバージョン単価。自動入札で広告システムが目指すCPAの目標値)を超えた場合には、アラートを検知した時点で一度声をかけるようにしています。コンバージョン数が異常に増えているのに実態が伴っていない場合も同様です。
判断を3か月待つことと、異常値を放置することは別の話です。数値の異常には早めに気づき、その都度実態を確認する体制を取っています。
学習期間を経て本来の効果が見える
広告は学習期間や最適化にかかる時間を経てはじめて、本来の効果が見える施策です。
短期間で効果が出る場合もありますが、効果を得るまでには一定の期間が必要になります。この点は、配信をはじめる前の最初の説明で必ず伝えるようにしています。
費用対効果を改善する3つの優先順位
広告費用対効果を改善する際は、思いつく施策を手当たり次第に試すのではなく、優先順位を守って手を打つことが重要です。ここでは、その優先順位を3つの観点から確認します。

まずターゲットを見直す
費用対効果を改善する際、最初に手をつけるのはターゲットの見直しです。
広告予算に余裕がない場合であっても、ターゲットの見直しであれば追加コストをかけずに実行できます。配信対象の年齢層やエリア、興味関心の設定を見直すだけで、CPAが大きく改善するケースも珍しくありません。
予算に余裕があれば導線・LPを改善する
予算に余裕がある場合は、次にサイトの導線やランディングページ(LP)の改善に着手します。
ターゲットの見直しだけでは伸びしろが限られる場合、広告をクリックしたあとの導線に問題が残っていることがあります。この段階の改善には制作コストがかかるため、ターゲットの見直しを終えたあとに取り組む優先順位です。
客単価アップ・媒体変更は行わない
改善の選択肢として客単価を上げることや、配信媒体を変更することは基本的に行いません。
客単価を上げなくても、ターゲットの見直しで費用対効果は改善できるためです。媒体についても、顕在層を狙えるGoogleのリスティング広告を中心に据え、追加するとしてもYahoo広告までにとどめています。
メタ広告のようなSNS広告は潜在層向けの性質が強く、積極的にはおすすめしていません。これは、ターゲットの見直しでまだ改善の余地が残っている場合の優先順位です。
広告の改善と並行して、SEOやSNS運用など他の施策を提案することもあります。
自社の費用対効果はどう計算すればいいか
自社の広告費用対効果に迷ったときは、業界平均のROASより先に客単価とCPAの比率を確認してください。目標売上から客単価を割り出し、CV単価を逆算し、広告予算を決めるまでの計算は工程が多いものです。実際に手を動かすと、会社ごとに前提条件も異なります。
自分たちで計算してみて手が止まった場合や、今の数値が危険なラインに近づいているか判断がつかない場合は、まず現状の数値を聞かせてください。